破産手続きを開始する前に発生して、未回収の売掛金請求権は破産財団に組み込まれる事になります。
こちらでは個人事業主や自営業者の方が自己破産した際の売掛金について解説いたします。
自己破産での売掛金の取り扱い
【破産法第34条】
- 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
- 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
- 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
- 一、民事執行法(昭和54年法律第4号)第131条第三号 に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
- 二、差し押さえることができない財産(民事執行法第131条第三号 に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第132条第一項 (同法第192条 において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
- 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
- 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない。
- 第4項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。
- 第4項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては、第10条第3項本文の規定は、適用しない。
個人事業主や自営業者が自己破産した際には、破産手続きを開始した時に所有していた全ての財産は、破産財団に入る事になり、破産管財人が管理・換価処分します。
ただし、個人の自己破産では自由財産として、破産財団に属さない財産もあります。
ですから個人の破産で処分すべき財産というのは、自由財産に当たらない財産という事になります。
破産財団に入れられる財産には、動産や不動産等の物だけではなく、債権も含まれます。
個人事業主や自営業者の場合には、事業の代金や報酬などの売掛金がある事があります。
この売掛金の請求権も債権であり、これは自由財産に当たらないのが一般的です。
つまり、個人事業や自営業の売掛金の請求権は、破産管財業務の費用や債権者への弁済に充てられる事になり、売掛金は破産者の元には残らないのが原則です。
換価処分の対象となる売掛金の範囲
このように、原則として事業の売掛金は自己破産の際には換価処分の対象となります。
破産手続きが開始する前に回収している売掛金は、もう請求権ではありません。
現金で回収して破産開始時に現金として持っているならば「現金」、また預貯金口座へ振り込みで回収して破産開始時に預貯金に入ったままならば「預貯金」として扱われます。
つまり換価処分されるのは、破産手続きが開始する前に発生し、なおかつ破産手続きが開始した時にまだ回収が済んでいない売掛金の請求権です。
ただし、破産開始手続きの後に発生する売掛金でも、破産手続きが始まる前に債権が発生する原因があるものについては、破産財団に入れられて換価処分の対象となります。
売掛金の自由財産拡張
このように、自己破産したら破産管財人によって売掛金は回収されます。
しかし小規模な個人事業や自営業で、その売掛金のみしか収入がないというケースもあると思います。
その場合、その売掛金を回収されてしまったら生活さえままならなくなる事もあり得ます。
そういったケースでは、裁判所にその売掛金について自由財産の拡張を認めてもらう必要があるでしょう。
自由財産の拡張というのは、破産法で認める自由財産ではない財産を、自由財産として裁判所の裁量で認めてもらうという制度です。
売掛金の自由財産の拡張が認められれば、破産管財人に回収されずに破産者が回収する事が可能となります。
ただし、裁判所に申立てをしても、自由財産の拡張が必ず認められというわけではなく、また認められたとしても、全額ではなく一部という事もあります。
認めてもらうためには、生活費が不足しておりその売掛金を自由財産として認めてもらう必要があるという事や、売掛金を自由財産とする許容性などを細かく説明する必要があります。
実質的に賃金である場合
売掛金と言っても名目に過ぎず、実質的には雇用契約に基づく賃金と同じであるというケースもあると思います。
賃金債権は金額の4分の3は自由財産であり、実務上は全額自由財産として扱われるのが一般的です。
ですから、その売掛金が実質的には賃金であるというようなケースでは、これは賃金であると主張して自由財産として扱ってもらうという方法も考えられます。

