自己破産の手続きを始める際は、破産法で決められた土地管轄のある地方裁判所に申立てを行います。
こちらでは、自己破産における裁判所の土地管轄について詳しく解説したいと思います。
自己破産での管轄裁判所
ひとつの事件があった時、それを担当するのがどの裁判所かという取り決めを管轄と言います。
その中で、どこの場所にある裁判所が担当するのかというのが「土地管轄」です。
破産事件の裁判所の職分管轄は、地方裁判所と破産法によって決まっているため、土地管轄のある地方裁判所に対して申立てをする事になるのです。
土地管轄の原則
【破産法第5条】
1、破産事件は,債務者が,営業者であるときはその主たる営業所の所在地,営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地,営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
【民事訴訟法第4条】
1、訴えは,被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2、人の普通裁判籍は,住所により,日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により,日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3、大使,公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは,その者の普通裁判籍は,最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4、法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は,その主たる事務所又は営業所により,事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5、外国の社団又は財団の普通裁判籍は,前項の規定にかかわらず,日本における主たる事務所又は営業所により,日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6、国の普通裁判籍は,訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
上記の破産法第5条第1項が、破産事件の土地管轄の原則を規定しています。
個人(事業者以外)、また事業者でも日本国内に営業所がない人は、普通裁判籍を管轄する地方裁判所に申立てを行います。
個人の普通裁判籍については、民事訴訟法第4条第2項で定められています。
裁判籍というのは、簡単に言うと裁判の戸籍のようなものになります。
住所を基準として定められており、訴えを起こす時にはその裁判籍のある裁判所に申立てを行う事になっています。
住所で戸籍が分けられ、その戸籍のある役所がその人に行政サービスを行ったり税金を徴収したりするのと同様に、住所で裁判籍も分けられ、その裁判籍のある管轄裁判所がその人の申立てを受け付け、司法的サービスを行います。
普通裁判籍というのは、裁判籍の中で原則的となる裁判籍の事です。
事業者ではない個人は、その人の住所地を管轄している地方裁判所に対して、破産手続き開始の申立てを行います。
日本国内に住所がない人は、居所の管轄の地方裁判所、日本国内に居所がないまたは居所もわからない時は最後に居住していた住所を管轄する地方裁判所に申立てをする事となります。
個人事業者の場合
個人事業者や法人などの事業者は、その主な営業所の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。
主たる営業所が外国にある法人の場合、日本での主な営業所を管轄している地方裁判所に申立てます。
営業者であっても営業所がない法人の場合には、その法人の代表者の住所を管轄する地方裁判所に申立てする事となります。
土地管轄の特則
【破産法第5条】
1、破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2、前項の規定による管轄裁判所がないときは,破産事件は,債務者の財産の所在地(債権については,裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
3、前二項の規定にかかわらず,法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き,会社法 (平成17年法律第86号)第879条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項,第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には,当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件,再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては,親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては,子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
4、子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には,当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして,前項の規定を適用する。
5、第1項及び第2項の規定にかかわらず,株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項 に規定する連結計算書類をいう。)を作成し,かつ,当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には,当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては,当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては,当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
6、第1項及び第2項の規定にかかわらず,法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては,当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては,当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
7、第1項及び第2項の規定にかかわらず,次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは,それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては,当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
一 相互に連帯債務者の関係にある個人
ニ 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
三 夫婦
8、第1項及び第2項の規定にかかわらず,破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは,これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも,破産手続開始の申立てをすることができる。
9、第1項及び第2項の規定にかかわらず,前項に規定する債権者の数が千人以上であるときは,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも,破産手続開始の申立てをすることができる。
10、前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは,破産事件は,先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。
前述の通り、事業者ではない個人や、営業者であっても日本国内に営業所がない人は、普通裁判籍のある裁判所に破産の申立てをする事になりますが、ある一定の場合には円滑に自己処理を進めるために、この原則とは違う地方裁判所で申立てを受けるケースがあり、それについて破産法第5条第2項以下では、次のような補充や特則を設けています。
破産財団所在地による土地管轄
原則的な土地管轄で裁判所が決まらないケースでは、破産財団の財産の所在地を管轄する地方裁判所が土地管轄となります。
ただし、個人の自己破産においては基本的に住所地で土地管轄を決めるので、破産財団の場所で管轄を決める事はほとんどないと言ってよいでしょう。
関連土地管轄
次のようなケースで、片方のある地方裁判所で破産手続きが進んでいる時には、もう一方も同じ裁判所で申立てが出来る事になっています。
- 親会社と子会社
- 法人とその代表者
- 蓮帝保証同士
- 主たる債務者と保証人
- 夫婦
これを関連土地管轄といいます。
実際には先に破産手続きが進んでいなかったとしても、同時に申立てをする事が多いようです。
大規模事件の特則
債権者が多数の場合、小さい裁判所では対処しきれない恐れがあるので、そのための特則があります。
債権者数が500人以上いるようなケースでは、各地域の規模の大きな地方裁判所にも管轄があります。
規模が大きい地方裁判所というのは、高等裁判所がある次のような都市の地方裁判所の事を言います。
- 関東 … 東京
- 関西 … 大阪
- 中部・北陸 … 名古屋
- 北海道 … 札幌
- 東北 … 仙台
- 中国 … 広島
- 四国 … 高松
- 九州・沖縄 … 福岡
さらに債権者が1,000人以上いる場合には、東京地方裁判所と大阪地方裁判所にも管轄が認められます。
ただし個人の自己破産において、債権者が500名以上いるようなケースはほとんどないと言えるでしょう。
東京地方裁判所本庁における運用
霞が関にある東京地方裁判所は、日本の中で最も人的・物的に設備が整っている地方裁判所であると言えます。
そのため、土地管轄については比較的柔軟な運用を行っています。
例えば、例外を除けば東京都に住所地がある債権者でなければ自己破産の申立てが出来ない事になっていますが、神奈川県や千葉県埼玉県に住所地がある人の申立ても受けています。
また東京都に住所地がなくても、実際の居所が東京都であれば申立てが受理される事もあります。

