自己破産の手続きとして、「少額管財」という制度が運用されている裁判所があります。
これは、破産手続きの際に裁判所に納付する予納金の額が、通常の管財事件と比べて低く設定されたものです。
こちらでは少額管財手続きについて詳しくお伝えしたいと思います。
少額管財事件とは
自己破産の手続きには、大きく分けて次の2つがあります。
- 管財事件
- 同時廃止事件
裁判所に選ばれ委任された破産管財人が、申立人の財産を調査して換価処分し、それを債権者に平等に配当するというのが、破産手続きの基本であり、それを管財事件と言います。
一方の同時廃止事件では、破産管財人が選任される事はありません。
破産手続きの開始と同時に、破産手続きが廃止されるというものです。
このうち、管財事件は裁判所によっては「少額管財」という運用を行っている所があります。
※詳細は「管財事件と同時廃止事件」をご覧ください。
少額管財とは、破産手続きの際に裁判所に払う予納金の額を、通常の管財事件よりも少額で済むようにしたものです。
その事から「少額管財」と呼ばれています。
自己破産をしやすくする目的
管財事件では、裁判所が破産管財人を選任し、その破産管財人によって破産者の財産を調査・管理・処分・債権者対応、また配当などを行います。
破産管財人は弁護士が選任される事になっています。
裁判所が破産手続きを外部の弁護士に外注するようなイメージです。
破産手続きには費用が掛かかります。
また破産管財人には報酬も支払われます。
破産管財人が行う管財業務が煩雑になればなるほど手続きには費用が掛かり、当然報酬の額も高額となります。
そして、それらの費用は基本的に破産者の財産から支払われる事になっており、自己破産の申し立てをする際に裁判所に支払う予納金も高額になるケースがあるのです。
通常の管財事件では、引継予納金の額は基本的に50万円からになっています。
50万円という金額は決して安くはありません。
会社や法人であれば別ですが、小規模な事業者や一般の消費者では、一括で支払う事が難しい人も少なくないでしょう。
しかしそうなると自己破産は一部の人しか利用出来なくなってしまう可能性があります。
それでは借金で悩む人の経済的更生を図るという目的も果たせません。
そこで、小規模な事業者や一般の消費者が自己破産を利用できるようにしたのが、予納金の額を少額に設定した「少額管財」です。
同時廃止の問題点であるモラルハザードを回避する
このように少額管財の運用は、裁判所に納付する引継予納金の額を少なくする事によって、自己破産を利用しやすくするという目的があります。
しかし、実はそれ以外にも重要な目的があるのです。
それは、同時廃止におけるモラルハザード問題を回避するというものです。
同時廃止になると破産管財人は選任される事はなく、破産手続きは開始と同時に終了します。
そのため予納金の額は管財事件と比べるとはるかに少ない2万円程度です。
そうなると、自己破産を申し立てようとする人が同時廃止事件として申立てをしたいと思うようになるのも無理がない事かもしれません。
しかし、同時廃止では破産手続きは実際には行われず、破産管財人が財産の調査をする事もありません。
要するに、資産や免責について十分な調査が行われない可能性が高いのです。
管財事件であれば、破産管財人が当然に資産や免責不許可事由についての調査を行うため、それらを隠すという事は難しいでしょう。
しかし、調査の行われない同時廃止事件では、非合法な手法が通ってしまう危険性があります。
同時廃止にするために、資産隠しや免責不許可事由隠しをして、自己破産を申し立てるという恐れがあり、それでは債権者の利益を大きく害する事になってしまいます。
このような同時廃止申立てのモラルハザードというような問題が多く発生したため、裁判所としては同時廃止の運用に慎重にならざるを得ない状況になったのです。
そうは言っても、破産管財人によって十分な調査を行うには管財事件にする必要があり、そうなると先述のように高額な予納金が必要なため、小規模な事業者や一般の消費者が自己破産を申し立てるのを妨げてしまう事になります。
そういった経緯から、利用しやすい程度の予納金の額に設定しながら管財事件として十分な調査が出来るようにと考え出されたのが少額管財という運用です。
予納金は少額であってもあくまでも管財事件なので、破産管財人による十分な調査が行われますから、不当な資産隠しを防げる上、無理な同時廃止の申立ての防止も出来るというメリットがあります。
少額管財の特徴
少額管財の特徴には次のような事が挙げられます。
- 予納金が少額である。
- 手続きが簡易かつ迅速である。
- 弁護士代理人による申立てが必要である。
それぞれについて詳しく解説します。
予納金が少額である
少額管財はその名の通り予納金が少額に設定されています。
例えば東京地方裁判所では、1万円程度の官報広告費と20万円の引継予納金を支払うのが原則です。
手続きが簡易かつ迅速である
予納金が少額である少額管財事件は、破産手続きのための費用や破産管財人に支払う報酬も少額で済ませる必要があります。
したがって、費用の掛かる財産管理処分などの業務がなく、処理が簡便な事件でなくては少額管財には出来ません。
ですから少額管財事の特徴として、通常の管財事件と比べて手続きが簡易で迅速であるという事が言えるのです。
少額管財の場合、申立てから2~5か月程度で手続きが終了します。
弁護士代理人による申立てが必要である
破産管財人の負担を軽減する意味合いから、少額管財の申立ては代理人の弁護士を選任しなければいけないというのも特徴のひとつです。
弁護士が代理人になる事で、申立て前にある程度の調査を終わらせておく事が可能であり、それによって手続きの簡易迅速化を図れるのです。
ですから、弁護士に依頼せずに自分で申立てを行う場合は、通常の管財事件または同時廃止手続きのどちらかになります。
東京地方裁判所による運用
東京地方裁判所では少額管財の運用がされており、破産の申立てのうち約4割が少額管財となっています。
個人や中小企業が管財事件として取り扱われる場合には、そのほとんどが少額管財となるようです。
通常の管財事件となるのは、大企業やある程度規模の大きい中小企業、または刑事事件が絡むものや債権者が著しく多い場合などの紛争性の大きい会社破産の場合に限られます。
東京地裁の引継予納金の額は20万円ですが、月5万円ずつの分割払いも可能です。
手続きにかかる期間は、基本的に申立てから2~5ヶ月程度となっています。
まとめ
少額管財は、破産管財人の調査によって資産隠しや免責不許可事由隠しなどの不正を防ぎ、なおかつ少額な予納金に設定する事で個人や小規模の事業所でも利用しやすいようにと考え出された制度です。
しかし、破産法には少額管財という制度は規定されておらず、あくまでも裁判所での運用の仕方という考え方です。
中には少額管財の運用をしていない裁判所もあるため、事前の確認が必要となります。

